胃潰瘍3 注意を要する胃潰瘍
胃潰瘍の中でも、注意が必要な胃潰瘍があります。ここでは多量の吐下血をおこしやすいデュラフォイ(Dieulafoy's)潰瘍と、難治性胃潰瘍の原因となるゾリンジャーエリソン(Zollinger Ellison)症候群につき、説明します。
デュラフォイ(Dieulafoy's)潰瘍
胃潰瘍はさまざまな原因で、胃の粘膜が欠損する病気です。ところが、デュラフォイ「潰瘍」では、粘膜の欠損がほとんど認められず、びらん(胃粘膜だけに限局した欠損)をときに形成しているだけです。
胃の近位(食道に近い方)にあることが多く、動脈性の出血を拍動性にきたします。突然の吐下血で発症します。
検査
多量の吐血、下血で来院するため、緊急内視鏡検査が必要です。ふつうは、破綻した血管から動脈性出血を認めますので、診断は容易です。
ただし、出血が多量で血圧が下がっていて、内視鏡検査時には一時的に出血が止まっているときは厄介です。大きな潰瘍をみとめないため、胃の中の凝血塊も邪魔をして、出血点を同定するのが容易でありません。洗浄をくり返して、ようやく見つかることも少なくありません。
治療
内視鏡で止血します。周囲は正常胃粘膜ですし、出血は点状なので、深い胃潰瘍のように止血に難渋することはありません。内視鏡下に出血点をクリップで挟んだり、局所に薬剤を注入すれば、多くは簡単に止血が可能です。
ゾリンジャーエリソン(Zollinger Ellison)症候群
難治性の胃および十二指腸潰瘍の原因に、胃酸産生を促すホルモン(ガストリン)を分泌する腫瘍があります(胃潰瘍よりも十二指腸潰瘍が多いですが)。
ガストリンは胃の幽門前庭部にあるG細胞から分泌されるホルモンで、消化酵素と胃酸の分泌を促進する働きがあります(ちなみに、膵臓から出るセクレチンというホルモンは、ガストリンの分泌を抑える働きがあります)。
ガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)が原因となる難治性の消化性潰瘍を、ゾリンジャーエリソン(Zollinger Ellison)症候群とよびます。ガストリノーマは多くは膵臓や十二指腸壁内にできますが、およそ50%は悪性なので他臓器へ転移します。
検査
血中のガストリン値を測定し異常高値であれば、ガストリノーマの可能性があります。ただし、診断はついても、治療に難渋することが多いのも特長です。
治療
- 腫瘍摘出術
- 胃全摘術
- 抗潰瘍薬の投与
腫瘍がどこにあるのか、術前の検査で明らかであれば、外科手術が第一選択です。悪性の可能性もあるので、摘出だけでは転移のおそれがあるからです。しかし、残念ながらガストリノーマは小さな腫瘍が多いので、画像診断で局在が明らかなものは多くありません。選択的動脈内セクレチン注入後>肝静脈血中ガストリンを測定する検査も、施設により行われています。
開腹手術をしても、どこを切除すればよいのか、わからないのです(好発部位である膵頭部と十二指腸を切除することもあります)。
腫瘍の局在が明らかでないときには、潰瘍による致命的な合併症(出血、穿孔など)をふせぐために、胃全摘術が昔よく行われていました。
腫瘍摘出ができないときには、胃酸分泌を強く抑制する薬を用います。また、注射薬のソマトスタチンアナログを月1回に筋肉注射することで、血中ガストリン値をさげる試みも行われています。