慢性胃炎1 概説と症状
急性胃炎の項でも解説したように、慢性胃炎も攻撃因子、防御因子のバランスで説明されます。胃酸は食べ物も溶かす強い酸性ですので、胃粘膜もそのままでは消化されてしまいます。つまり、胃酸そのものが、胃粘膜を攻撃する因子です。
一方で、胃粘膜はその表面から粘液を出して自身を保護し、胃酸から防御しています(防御因子)。この攻撃因子、防御因子のバランスが崩れることが、胃炎や胃潰瘍の原因とされています。
このうち慢性胃炎は、種々の原因でおきる胃粘膜の慢性炎症です。急性胃炎が攻撃因子の増加、増強で説明できることが多いのに対して、慢性胃炎では(長期間の攻撃因子にさらされるために)防御因子の弱体化が原因となります。
症状はさまざまで、ほとんど無症状のものから、胃潰瘍の様な強い痛みをともなうものまであります。典型例を提示します。
症例
男性、68歳定年退職後。若い頃から胃は弱い方で、バリウム検査で十二指腸潰瘍を疑われたこともあり、胃薬をよく飲んできた。タバコは日に1箱が40年以上になる。
仕事をしていた頃は肉類も好きでよく食べていたが、最近は食べ物の好みも変わって、魚や野菜が中心である。アルコールは晩酌でビールを1缶、最近は酒量が減っている。
最近になり、少し食べただけですぐおなかがいっぱいになり、食後もしばらく上腹部が張った感じが3時間ほど続く。食欲もなく、胸焼けや胃もたれを食後に感じる。ここ1ヶ月ほどは市販の胃薬を飲んでも、食後に胃の鈍痛を自覚するようになり、癌が心配で胃腸科を受診した。
診断のポイント
若い頃から胃が弱い、と自覚している人が、年齢を重ねるに従い、胃のいろいろな症状が出てきている。若い頃に十二指腸潰瘍や胃潰瘍を患ったことのある人は、(最近はまれであるが)ピロリ菌の感染が持続的におこっている可能性が高い。
このような患者さんが、胃薬を服用しているにもかかわらず、慢性の胃症状、とりわけ胃の動きが悪いことを思わせる訴えがある。
検査
以上の病歴から、慢性胃炎がもっとも疑われますので、胃の精密検査が必要です。慢性胃炎も程度が強く、粘膜の萎縮が高度であれば、バリウム検査での診断が可能です。ただし、慢性胃炎の程度がかるい症例では、粘膜の表面が赤くなっているだけ、という場合も多いので、内視鏡検査がお勧めです。
なかには内視鏡でほとんど異常がないのに、慢性的な胃もたれなどを訴える方もあります。胃の動きに問題がある、と考えられており、機能性胃腸症(FD=Functional Dyspepsia)と呼ばれます。
なお、貧血や栄養状態のチェックも必要ですので、血液検査と腹部単純レントゲン検査は必要です。また、胆石症や慢性膵炎の可能性を否定するために、腹部超音波検査も有用です。CT,MRI,PETは慢性胃炎の診断には原則不要でしょう。