胃潰瘍1 概説と症状
胃潰瘍の病態を説明するときには、急性胃炎や慢性胃炎と同じく、攻撃因子、防御因子のバランスで説明されます。胃酸そのものは食べ物も溶かす強い酸性(攻撃因子)です。
一方で、胃粘膜は胃酸から自身を保護するため、その表面から粘液を出しています(防御因子)。この攻撃因子、防御因子のバランスが崩れることが、胃潰瘍の原因です。
胃炎は胃粘膜表面だけの炎症ですが、潰瘍はさらに炎症が深くなり、粘膜の下の組織まで深く掘れた状態です。昔は胃潰瘍で手術がよくおこなわれましたが、内科治療の進歩により入院や手術が必要な例は激減しました。
典型例を提示します。
症例
女性、28歳 会社員。喫煙習慣なし。転職したばかりで、ストレス多し。そのためか、最近はお酒を飲む機会がふえている。
急ぎの仕事をまかされ、残業続き。腰も痛くなり、痛み止めの薬を服用している。食事が決まった時間に摂れず、上腹部の不快感、食欲減退を感じていた。
先週から食後にみぞおちのあたりがシクシク痛むようになり、やがて胸焼けや吐き気も感じるようになった。食後の痛みはじょじょに強くなり、長い時間続くようになる。翌朝、おなかの強い痛みで目が覚めて、トイレへ行くと真っ黒な便が出たので、救急外来を受診した。
診断のポイント
ストレスの多い毎日、タバコは吸わないが飲酒が増えている。痛み止めの薬を連用する、など攻撃因子が多い。
食後にシクシク痛む上腹部痛で、胸焼け、吐き気をともなうのは典型的な胃潰瘍の症状。また、黒色便は潰瘍からの出血を疑う。
検査
以上の病歴から、出血性胃潰瘍がつよく疑われます。採血で貧血の有無、栄養状態や炎症の程度をいそいで確認しなければなりません。出血や貧血の程度に応じてまず輸液など、全身状態の改善を優先するときもあります。
その上で、緊急で胃の内視鏡検査が必要です。バリウム検査では潰瘍の有無はわかっても、止血処置ができません。
発熱など、穿孔(胃に穴が開き腹膜炎になる)や穿通(胃からほかの臓器へ穴が掘れていく)の兆候があれば、超音波検査やCT等もおこないます。
この症例のように出血などの合併症がない場合は、待機的に内視鏡検査をします。潰瘍の形や色調などから、悪性が少しでも疑われるときは、潰瘍の縁から組織を採取します。顕微鏡検査で胃癌でないかどうか、確認することが重要です。