トークショーその2

トークショーはまだまだ続きます。つぎは各出演者がいちばん印象深い、と思うシーン。舞台のかれらの前には大型のモニターが、客席の皆には舞台上方のスクリーンにそのシーンが写り出すしかけ。

まず、草原から。かれが挙げたのは「草原が四草の部屋へ行って、草若師匠のもとへ戻ろう」というシーン(蛙の子は帰る、の週)。草原が四草を説き伏せようとしてるうちに、四草が激高してきて、九官鳥平兵衛が崇徳院のくだり、「瀬をはやみ」と喋る。草原が涙を流す四草の髪をくしゃくしゃとする、感動的な場面でした。

なんでも、吉弥さんが虎ノ介さんと芝居をするのは、このシーンがはじめて。「彼がどんな役者かもわからん状態で、はじめての絡みがこのシーンだった」そうです。が、科白やBGMを消してみると、吉弥さんによれば、「刑事が犯人を追って部屋に行き、おまえがやったんやろ、と問いつめる。シラを切る犯人。するとそのとき、彼の飼う九官鳥が犯行を自供しはじめ、あわてた犯人が九官鳥をだまらせようとする。やがて、すべてを悟られ自供をはじめた涙の犯人に、刑事がやさしく自首を勧める、というシーン」だそうな。なるほど効果音、BGMにいかに人間が左右されるか、ということ?

ちなみに、このシーンが画面に映ったときの舞台上の反応を。大笑いになっていたのですが、その理由が「うわぅ、草原にいさん、えらい痩せてますね!」と。いわれてみれば、そうかも。

ついで草々。こちらも(一難去ってまた一男)の週から、「破門を宣告された草々が、若狭に説き伏せられてふたたび草若邸に舞い戻る」シーン、前半の山場のひとつで、日本中で滂沱の涙が流されたことでしょう。じっさい、このシーンがスクリーンに映し出されたとたん、客席が静まりかえりまして。いちばん前の席に陣取るご婦人が、うるうると涙をハンカチで押さえるのを、吉弥さんがめざとく発見。「おかあさん、涙流されてますが。大丈夫ですか。スィッチ入るの早いですね」、と客席をいじります。

このシーンの直前に、草若こと渡瀬恒彦さんから「青木、ここはほんまにいくからな」と宣言を受けてたそうです(是非もなし、という雰囲気、と草原)。じつは青木君、頸の調子が悪かったそうで、リハーサルで一発、本番でさらに一発と強烈な平手打ちを浴び、そのときは何ともなかったのですが。

しばらくして興奮が治まってみると、頸はともかくも、片方の目がかすんでくる。そのカスミは時間をまってもぜんぜん良くならない。あ、こら大変や、と一人あせっていたそうですが。

裏を明かせば、平手打ちをされて、コンタクトレンズがすっとんでしまっていただけ、ということ。スタジオの庭の片隅から、しばらくしたら回収されたそうです。草々いわく、「平手打ちのシーンをコマ送りで見たら、コンタクトがとんでいくのが見える」とか?ほんまかいな。

小草若が選んだシーンは意外にも。松重豊さん扮する若狭の父が、弟小次郎(京本政樹さん)に円周率を諳んじてみせるところ、なぜかといえば。

彼にもよくできた自慢の弟がいて(そこは小次郎と違うけれど)、今回のドラマ出演に際しても「最初のオンエアーのときに、あそこはこうした方がよかったんとちゃうかな」とご指導いただいたそうで。要するに、兄は弟に敬ってもらいたい、そのためにはつまらん事にでも意地をはったりするものや、ということらしいです。そういえば、茂山宗彦さんの実弟、逸平君も朝ドラ「オードリー」に出てましたね。主人公の乳母役?に藤山直美さんが出ていたのと、長嶋一茂さんが下手な芝居をみせてくれたのが記憶に残っています。

前後の流れからいえば、きっと「草若が寝床寄席で高座に復帰する直前に、小草若が涙ながらに寿限無をくるシーン」だと、想像していたのですが。ちょっと変化球で、きました。

四草がえらんだシーンも、やはり「蛙の子は帰る」の週から。「草原、四草ともども草若師匠のおかみさんの墓へお参りしに行く。そして、草々が二人を抱きしめて大泣きする」というシーン、これもみたときはグッと心にしみるシーンでした。ところが、会場でこのシーンが流れると、さきの草原、草々のシーンのように静かな感動がひろがるどころか。いきなり爆笑がおこりました。というのも。

恐竜頭の草々が、ふたりの兄弟弟子をわしづかみに、ふりまわしているのです。特に四草は画面上に顔がずっと晒されていて、いかにも困惑している風。放送時は四草の性格がまだ、十分と認知されてなかったので、そうおかしくなかったのですが。実は、虎ノ介さんと青木さんの共演も、このシーンがはじめて。いきなり、ヨーイドン、で頸を締め上げられて息ができなくなった、と「ちょ、ちょっと青木君、手加減してよ」と言いたかったそうです。

ちなみに、草々の右腕には草原が抱え込まれるのですが、「音声さんがすごく工夫してて、放送をよく聞けば草々の心拍(!)が聞こえる」と草原が言ってました。真顔だったので、これは真面目な話だと思われますが。

最後は若狭。彼女のえらんだシーンは、順不同で落語再現シーンと命名のさいの妄想シーン。落語再現シーンを含めて、「ほとんど男子の役で、綺麗な女子のシーンはさいしょだけ。ついにはソーセージのかぶりものまで。」と、ぼやいてました。特に徒然亭ソーセージのシーンでは、ソーセージが重くってお辞儀ができなかったので、あのポーズになったと。もっとも、彼女自身はけっこう楽しんでいたそうで、「ソーセージの顔の粒マスタード風化粧はわたしがメイクさんと工夫しました」と。

ところで、草々や若狭以外の弟子たちも案外に落語再現シーンへの登場はあまりないようで。草原は「地獄八景亡者の戯れ」で太鼓持ち。四草は「鉄砲勇助」で職人。ところが小草若だけは「僕には落語シーンがないのですよ」、すかさず、まわりから「妄想シーンは満載やんか」。

印象深いシーン、と最初聞いたのですが、みなさん「面白おかしく笑えて記憶に残るシーン」を意識していたようです。落語家演じてると、ついついお笑いのほうへもってくならいに?