落語ちりとてちん

ここで弟子たちがいったん下がり、舞台に高座が用意されます。左右から大道具さんでしょうか、徒然亭の蜩の紋が入った黒地のTシャツをまとった人たちが出てきまして、あっという間に舞台上に高座をしつらえます。やがて、めくりがめくられると「桂吉弥」、お待ち遠さんで。演目はもちろん、「ちりとてちん」です。

桂吉弥さん、今日は大活躍、頼りになる兄貴分です。トークショーでも合間、合間で話を盛り上げる。たくみにネタをふったり、物まねをしてみせる。

物まねはスタジオパークで披露したお咲さん、小草若にくわえて、「A子が濱辺でB子の捨てたペンダントを拾うシーン」も。愛宕山でいう「太鼓持ち、男芸者とも呼ばれる、たいへんむずかしい職業でございます。」そのままですな。

お囃子はなかった?ように思うのですが、スタスタと舞台上座から吉弥登場。あきらかに今までとは表情が違う、これが彼の本芸なのだ、とあらためて実感しました。

今日は旦那の誕生日。ごちそうに招かれた喜ぃやんは出される酒や料理に大喜び。料理が運ばれるごとに「初めてでございます」と笑顔を見せ、一口食べては「美味しい、美味しい」と褒めちぎる。旦那さんはそんな喜ぃやんをみて気をよくする。

そんな喜ぃやんとは反対に、裏に住む竹はひねくれ者でしったかぶり。何かというと文句ばかり言う少々癖のある人物。常々、竹を嫌っていた旦那さんは喜ぃやんの前で竹の悪口を言う。

スタジオパークからこんにちは、ではこの前段のくだりが大幅に省略されていましたが、こちらも丁寧にたっぷりと。「長崎という町は、その名の通り、ながーい町です、よ!」という身振りは、はたして吉弥さんのオリジナルなのか、あるいは吉朝師匠からの伝承なのでしょうか、浅学にして分かりませんが。

その頃、台所では「腐った豆腐が出てきた」と騒ぎになっていた。赤、青、黄、黒、灰色と色とりどりのカビが生えた豆腐を見た喜ぃやんは、またしても「初めて見た」と大喜び。

一方の旦那さんは、この豆腐を竹に食べさせてやろうと悪だくみ。「どこぞの名物、名産、珍味」と言って、竹に出してやろうと言い出す。

カビの生えた豆腐に醤油、山葵、梅干しを混ぜ、箱に詰めて「長崎名産ちりとてちん」だと偽って竹に出すことに。何も知らない竹は、誕生日の祝いと聞いてやってくる。予想通りけなしてばかりの竹。ついに「私を呼ぶなら、こんなものが手に入ったというような珍味を用意しろ」と言い出した。

渡りに船と、旦那は得意顔で「長崎名産ちりとてちん」を出す。案の定、知ったかぶりの上、大好物だと豪語した竹は見た目もにおいも強烈な「ちりとてちん」を食べざるを得ない状況に。吐き気をもよおながらも何とか口に入れた竹に、「どんな味や?」と聞く旦那。竹の答えは「豆腐の腐ったような味でんねん」。

やはりプロは違いますなぁ。

後半の途中からはもちろん、つい先日のスタジオパークでも披露されていたのと寸分違わず、といった感じですが、「長年にわたり人の口から口へ語り継がれてきた古典」の素晴らしさ、ツボにはまったように次から次へと笑いが巻き起こります。

最後にお辞儀する吉弥さんの丁寧なお辞儀、印象的でした。なんとなく「ちりとてちん」劇中の「思えば遠くへすったもんだ」の週で、草原のいつになく美しいお辞儀に感銘をうけた草原妻、緑さんのくだりを思い出しました。

「それではここで15分の休憩をいただきます。」とアナウンスがはいりまして。